
“事故物件住みます芸人”の松原タニシさんが9月10日、東京・渋谷区のセルリアンタワー能楽堂で開催された「落語×怪談会 『粋狂満願(すいきょうまんがん)―牡丹燈籠が灯る夜―』」に登場しました。
セルリアンタワー能楽堂で初開催! 伝統芸能と現代怪談が交錯する『粋狂満願―牡丹燈籠が灯る夜―』

(C)松竹
『粋狂満願―牡丹燈籠が灯る夜―』は、8月に歌舞伎座・納涼歌舞伎で上演された『怪談 牡丹燈籠』の歌舞伎オンデマンドで配信開始に合わせて、「能楽堂」という歴史ある場所で怪談と落語を掛け合わせる初の試みとして企画されたイベント。タニシさんを始め、16人抜きで真打に昇進した・注目の落語家三遊亭わん丈さん、怪談家・ぁみさん、怪談師の牛抱せん夏さん、怪談・オカルト研究家で作家の吉田悠軌さんといった“長年怪談に携わってきた出演者たち”が、『牡丹燈籠』やお札(おふだ)にまつわる怪談をテーマに、各自のエピソードを持ち寄って語り合いました。
今回編集部は、開演前のタニシさんにインタビュー。落語×怪談という同企画の魅力や、長年事故物件に住み続けているタニシさんならではの“怪談観”をお聞きしました。
「伝統芸能の厚みにお邪魔する」――落語と怪談がステージ上で起こす化学反応

そもそも『怪談 牡丹燈籠』とは、落語家の三遊亭圓朝が幕末に創作した長編の怪談噺。『四谷怪談』や『皿屋敷』と並び、“日本三大怪談”と称されています。
全22話で構成されており、奇数章と偶数章で異なるストーリーが交互に同時進行。奇数章『孝助の槍』では侍の飯島平左衛門とその忠臣・孝助のお家騒動や仇討ち話が進み、偶数章『お露新三郎』では、平左衛門の娘・お露と浪人・萩原新三郎 の恋模様が描かれます。『お露新三郎』では、幽霊となったお露がカラン、コロンと下駄を鳴らして新三郎に会いに来る場面が有名です。この奇数章と偶数章はそれぞれ独立して進行しながら、ラストで1つの大きな因果応報の物語としてつながっていくのです。
――今回は能楽堂で落語と怪談のコラボという、斬新な企画です。
松原タニシ「8月の納涼歌舞伎も拝見させていただきました。落語や歌舞伎の演目である『怪談 牡丹燈籠』と現代の怪談を掛け合わせて、しかもこの能楽堂でやるというのが、これまでにない初の試みで面白いなと思いました。江戸時代などの歴史を遡れば、落語や歌舞伎、能楽といった伝統芸能は民衆にとって身近な娯楽だったと思います。積み重ねられた『伝統の厚み』がある一方で、現代の怪談イベントは誰もが気軽に足を運べる新しい庶民文化として定着しています。僕としては、伝統芸能が持つ長い歴史と文化の厚みに、『少しお邪魔させてもらう』という感覚です」

――今回の怪談会のテーマが「『牡丹燈籠』と『お札』」ですが、怪談の“ネタ”はどのように集めたのでしょうか。
「出演する怪談師のメンバーは10年〜20年近く怪談をやり続けている人たちなので、何百というエピソードをお持ちの方々です。僕自身はお札が貼られた部屋に住んだ経験はありませんが、取材した事故物件や宿泊施設の中でお札が登場する話もありましたし、まさに『牡丹灯籠』の『お露が新三郎のもとに来る』に近しい体験というか、共通していると感じたこともありました。今まで自分が体験した話を1つの作品にできればと思っています」
――ステージ上での他の出演者との掛け合いも楽しみです。
「落語と同じで、他の出演者が当日どんな話をするかは事前に一切知らされていません。怪談や落語は、当日に誰が何を喋るか分からないからこそ、予期せぬ化学反応が起きるのが良いところというか。ライブ感が魅力です。三遊亭わん丈さんとのクロストークも含め、話芸としての面白さを存分に感じていただけるはずです」
恐怖心は人間の“安全装置”? 事故物件暮らしで深まった感覚「死は身近なもの」

タニシさんが初めて事故物件に住んだのは2012年。テレビ番組の企画をきっかけに住み始め、その様子を綴った著書『事故物件怪談 恐い間取り』(2018年)が大ヒットとなり、2020年、2025年には映画化されました。
――事故物件暮らしをスタートされた当時、どのようなお気持ちでしたか。
「当時は、『誰もやっていないことに挑戦できるんだろうな』という感覚でしたね。もちろん恐怖心もありましたけれど、『やってみよう』という気持ちの方が強かったです」
――もともと霊感はあったのですか。
「いえ、全くないです!」

―霊感がない状態でも、何か感じたり見たりしたのでしょうか。
「たぶん、恐怖心が“気づき”になるというか、恐怖心がないと不思議な現象と結びつける作業をしなくなるんですよ。『事故物件』という怖いイメージがあるからこそ、普段とは違う出来事が起きた時に、『やっぱり事故物件に住んでいるからこういうことが起きるのかな』という結びつけになると思います」
――自ら結びつけてしまうと。
「それは今回の『牡丹燈籠』や怪談にもつながると思うのですが、人間の持つ恐怖心が怪奇現象を呼び寄せるというか。事故物件に住んでみて、そういう心理的な発見もありました」
――事故物件に住んでみて実感したのですね。
「普通に生きていても事故に遭うし、骨折するし、友達とケンカもする。その原因を『自分自身』にすることを、人間は恐れているんだろうなと。そうなった時に、よりネガティブなもの、例えば幽霊や事故物件、占いの結果などに原因を求めるのが、人間が生きていくための安全装置なんだろうなと、事故物件に住んで思うようになりました」
――住み始めて実際にケガをしたとか、運気が悪くなった感覚はないですか。
「ないですね。周りからは勝手に言われますけれど(笑)、僕自身の体感としては特にないです。でも怖いのは『事故物件に住んでいたからだ』と思い込むと、どんどん悪い方向へ落ちていく気がして。その恐怖とはずっと戦っている気がします」

――近年はあえて事故物件を扱う不動産屋も増えています。事故物件に住む際の“気の紛らわし方”などがあったら教えてください。
「今でも大阪と東京で事故物件に住んでいますが、住んでみて、『ここで人が亡くなったんだな』ということを1回受け入れると、世界が変わります。自分は1〜2か月くらいで受け入れられるようになりました。現代社会はすごく『死』を遠ざけていますよね。家でお葬式をすることも少ないし、地域や親戚の付き合いもあまりなくて、『人が死ぬ』ということがファンタジーになっちゃっているんですよ。だから幽霊や怪談もファンタジーの世界になりがち。でも事故物件に住むと、『人は死ぬよな』というのをリアルに感じられる。それを受け入れると自分の人生も自覚できるというか、『死は身近で、特別なものではない』と感じると思います」
――事故物件に住むことが死生観にも影響している気がします。
「『怖いな』と避け続けたら一生避け続けないといけないけれど、1回、『人は死ぬよな。その上で自分は生活しているんだな』と実感すると、その後の生き方が多少なりとも変わるんじゃないかなと思います。事故物件は教えてくれることがすごく多くて、人が避けていることだからこそ知れることが多い。『自分が住む前に、ここで人が生活していたんだな』と感じたり、『死が身近になる』ということで『自分も死ぬんだ』と自覚できたり、学びが多いです」
――今後はどういった活動をしていきたいですか。

「今回こういう機会をいただけて、能や落語、歌舞伎のこともっと知りたいなという、新たな世界を知るきっかけになりました。『どうやってこの芸能が組まれてきたのか』『牡丹燈籠という話が、なぜここまでずっと続いているのか』を知るきっかけになりました。今後も、『知らなかった世界』に関わらせてもらえたらと思います」
入門に最適なポップな落語からガチ怖怪談まで――『牡丹燈籠』の世界観を堪能した一夜

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今回のイベント第一部では、能舞台に登壇したわん丈さんが『怪談 牡丹燈籠』の聴きどころを分かりやすく語りました。初めて落語を聴く人でも大まかにストーリーや登場人物が理解できるように工夫されています。お露と新三郎との出会いや恋模様もわん丈さんならではの手法で語られます。

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その後、明るい雰囲気から一転して、亡くなったお露が幽霊となってカラン、コロンと下駄を鳴らしながら新三郎のもとへやって来る恐怖シーンへと進みます。わん丈さんのパートでは、お露が新三郎の部屋に入ってしまうキッカケとなる「お札はがし」の場面の手前までが披露されました。

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第二部では、わん丈さん、タニシさん、ぁみさん、牛抱せん夏さん、吉田悠軌さんが登場。わん丈さん以外の4人が1人ずつ前へ出て、『牡丹燈籠』や『お札』に通ずる自身の怪談話を紹介しました。

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吉田さんは知人男性から聞いたという、「なぜか女性ばかり嫌う部屋」を紹介。知人男性はその部屋がとてもキラキラして心地良く「ずっと住みたい」と感じるのですが、なぜか同棲する彼女や、その部屋を訪れようとした保険外交員の女性の身に異変が起こってしまいます……。

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またタニシさんは、自身が住んだ事故物件の中で「住み心地が良かった部屋」のエピソードを披露。これまでは1年程度で引っ越しを繰り返していたのに、なぜか長期間住んでしまった部屋。数年経って番組の企画でそのマンションを訪れた際、タニシさんがその部屋の幽霊(?)から好意を寄せられていたことが分かったそうです。
ここまでの2話ともに「お露と新三郎」にも通ずる、“引き寄せられた”ようなお話です。

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またタニシさんは、「お札」に関する話も紹介。ホテルや旅館などに貼られていたお札にまつわる実話を、時に笑いを交えながら語りました。
ぁみさんも、「お札」にまつわる恐怖話を紹介。とある女性が古いアパートに引っ越したところ、その部屋の押し入れにはお札が貼ってあり、いわゆる“事故物件”だったのです。家賃の安さからそれを了承して住み始めた女性は、ある時、押し入れのお札がはがれかかっていることに気づきます。その後、不気味な出来事を体験した女性は「お札を貼り直そう」と決意するのですが……。

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実際にあった「お札」エピソードに、会場はゾクゾク&ひんやりとした空気に。怪談話を聞いていたわん丈さんも、「首の後ろが痛くなってきた……」と“何か”を感じた様子です。

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ラストを飾った牛抱せん夏さんは、第一部前半でわん丈さんが語った『怪談 牡丹燈籠』の場面の続きを熱演。“お札がはがされた後”のお露と新三郎の展開を、時に切なく、時におどろおどろしくい様子で演じ、会場を魅了ました。

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第一部、第二部を通して、『怪談 牡丹燈籠』の世界観を感じながら、実際にあった恐怖体験を知ることができた『粋狂満願―牡丹燈籠が灯る夜―』。現代で起きた不思議な現象も、どこか『牡丹燈籠』と通じるものがありました。
落語、怪談、能舞台――。日本の伝統や文化のエッセンスが織り込まれた斬新でゾクっとできる体験。ぜひ第二回、第三回と、「違う怪談作品でも見てみたい」と思った一夜でした。
配信情報

(C)松竹
視聴期間:3,000円(税込)
視聴券販売期間:販売中~9月30日(水)20時00分
視聴期間:9月30日(水)23:59まで
配信サイト:
歌舞伎オンデマンドhttps://kabukiondemand-japan.stores.play.jp/
イープラスStreaming+ https://eplus.jp/suikyoumangan/[詩藤1]


